ビターチョコレートの味。




*st.valentine*




明日はバレンタインデー。
本当なら男性から女性へあげる日なんだけれど。
どうやら、ここより東の島国では、女性から男性へチョコをあげるらしい。
と言う訳で、いつもと変わらず真面目に仕事をしている彼女にちょっと言ってみた。

「君は知っていたかね?」
「何をですか?」

いくら仕事をしているからと言って、書類から目を離して此方を向いてくれても良いと思うのだが。
書類に目を通しながら、返事をする彼女に見て、少し溜息をついて話を始めた。

「ここからずっと東の国ではバレンタインデーには女性から男性にチョコを上げるんだそうだ」
「そうなんですか。文化の違いと言うものですね」

相変わらず書類を見たまま、さらっとそう受け流して、仕事を続けている。
そして、それは置いておいて仕事してください、とさっきから減っていない書類の山を見た。
少し言葉に詰まると、彼女がこちらを見た。

「それ、今日中に終わらなかったら、明日の休みはナシですよ?残業付きです」

少し雪が舞っている窓を見て、思いっきり溜息をついた。



そして、結局仕事は終わらず。
14日の夜になっても書類の山は一向に減らず。
一人残業になってしまった。
少しは期待していたチョコレートも、彼女からは貰えずじまいで、熱いコーヒーを片手に溜息を一つ。
確かに他の女性からはまぁ、いろいろ貰ったりもしたのだが。
また思いっきり溜息をついて、執務室に戻ると、私服に着替えた彼女が向こうを歩いている。

「中尉!」
「・・・・大佐・・・私は少し用があるので先に失礼させてもらいます」
「ああ、わかった」
「では、失礼致します」

少しの期待も裏切られて、そのまま礼をした彼女はすたすたと出口へ向かう。
虚しいものだ。
更に溜息をついて執務室に戻ると、心なしか書類が増えている気がする―――いや、絶対に増えている。
彼女か。

「・・・・書類なんか欲しくないと言うのに・・・・」

今日何度目かの溜息をついて、椅子に座る。
ふと書類の山に目をやると、何やら綺麗にラッピングされた小さめの箱とメッセージカード。
さっきは書類の陰になっていて見えなかったらしい。
カードを手にとって見ると、綺麗な字が書かれていた。

―――ちゃんと仕事してくださいね。

名前は書いてなかったが、見なれた綺麗な字と、聞きなれた言葉で誰からのものかすぐに解かった。
ふいに笑みが零れる。
そして手に持っていたコーヒーを机の上に置いて、綺麗にラッピングされた箱を手に取る。
そして、手作りらしいチョコを少し口に運ぶ。
ほろ苦いビターチョコレートの味。

「・・・・・・・・・・・仕事でもするか」

残りは家で食べるとしよう。
彼女お手製の、苦くて甘い、チョコレートを。









fin

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